大阪いずみホールでのベートーヴェン全曲演奏会もついに6回目を迎えました。
 大阪のいずみホールは初めて弾いたときから大好きなホールで、木材に反響する音が、前から後ろに上っていく席とともに上に登っていくように感じられます。この会場の直接的ではなく、ふわっとした雰囲気のある広がった音は、お客さまへ暖かく伝わるのではないかと思います。
 今回は「悲愴」と「熱情」が入ったかなり激しい感情を表すプログラムでしたが、先月お伝えした録音と、ライヴのコンサートとはまったく違うと確認できる演奏会でした。準備をするときは、楽譜を見比べ、人に聴いてもらったり、自分で録音して聴いてみたり、細かいことまで研究していきます。しかしコンサートでは、その練習してきたことをすべて切り捨てます。既に指に刻まれている細かいニュアンスなどは無意識に表れ、練習室にはないホールの雰囲気とお客さまの熱気によって緊張感や躍動感が創られます
 その場では、完璧を求めるというより、ベートーヴェンのメッセージを伝えようという気持ちでいっぱいになります。コンサートでは常に「もうこの演奏しかない!」と考えます。今言いたいこと、今感じているものを届けたい、そんな気持ちがお客さまに伝わっていたらうれしいです。
 ときには今まで浮かばなかったアイデアにはっと気づいたりします。ベートーヴェンの音楽は哲学のようで、答えより質問が頭に浮かびます。ただコンサートのときは急に、「あっ!ベートーヴェンはこれが言いたかったのか!」という発見があったりするのです。
 終わってから録音を聴いてみると、いつも反省だらけですが、その中にはコンサートでしかない情熱や必死さがあると、自分でも確信できます。
 第1回から徐々にお客さまが増えて、今回はたくさんの方々に迎えられ、この上なく嬉しい気持ちでした。聴いていただけるからこそ演奏家としての仕事に意味があり、この演奏家と聴衆のコミュニケーションは私にとって欠かせないものです。また次の公演でどんな人々に会えるか楽しみでなりません。