音楽を奏でることはもちろん素晴らしい芸術ですが、音楽を聴くことも芸術の一環だと思います。私は、自分が演奏することも好きですが、聴きに行くことも好きで、それは、母とよくコンサートに通っていた幼い頃から変わっていません。数多くの感動が今、私の原動力になっています。
 ドイツ・ハノーファーの学校に通っていた7年生のとき、クラスで「ヘンゼルとグレーテル」(オペラ)を見にいき、それが楽しくてしょうがなくて、年中オペラに通うことに。それは、ピアノの先生に次のレッスンの日を指定されると「その日はプッチーニの『蝶々夫人』を見るので、違う日にできますか」と訊くほどでした。
 ある日ピアニストの巨匠、アルフレッド・ブレンデルがベートーベンの最後の3つのソナタを弾くとききましたが、そのときにはチケットはもちろん売り切れ。ピアノのクラスの学生たちは「チケット求む」という大きな看板を持って入口の前に立ちました…でも立っている学生も大勢。私はその前にチケットを手に入れなくてはと思い、駐車場に行き、車から出てくる人全員にチケットはないかききました(時々同伴者が来られなくなって売る人がいるのです)。コンサート5分前にやっとそういう人がいました。あのやっとのこと聴けた素晴らしいリサイタルは今でも忘れられません。
 15歳ぐらいのときにワーグナーにはまったこともあります。ドイツの神話と共に奏でられるこの上なく美しいハーモニーは、私の心を深く揺さぶりました。その頃、いつかバイロイトに行こうと決心しました。そして10年後、やっと行くことができました。この歌劇場は、オーケストラピットが隠れており、まったく見えません。視覚は舞台に集中し、音楽は聴覚だけによって伝わってくるのです。舞台はかなり奇抜でしたが、真っ暗な中から聞こえてくるそのハーモニーの響は、貴重な体験になりました。
 最近、音大生のお客様はどんどん減っているように感じます。感動することの素晴らしさ、本物に触れたいという好奇心と情熱をこれからの世代にも持ち続けてほしいです。