演奏旅行での出会いが生む情熱 2017/4

コンサートツアーでさまざまな場所を回りますが、音楽を共有する前に、訪れた街の人々と交流を深め、歴史を学ぶことによって、より深く、すてきな思い出ができることがあります。

   先週、イギリスでリサイタルツアーがありました。イギリスではホテルではなく、ホームステイすることも多く、主催者の自宅に泊まることもありました。イングランド東部、ノリッチに住む主催者は、定年退職時に売りに出されていた自宅の隣のチャペルを購入、以来20年間コンサートを続けているというおじいさんでした。

   80歳の誕生日を迎えるというこのおじいさん、公演前後の夜は自ら手料理を振る舞ってくれました。ワインを飲みながらシェパーズパイやチーズ、プディングと次々に出てくるごちそうを堪能。彼が15歳のときに初めて行った公演でブリテンのセレナードを聴いたときの感動や、ブリテン自身を客席で発見し、サインをもらったという思い出話など音楽漫談にふけりました。

   公演日の午前中はノリッチで11~12世紀に建てられた大聖堂を見に行き、神聖な気持ちで演奏と向き合うことができました。

スコットランド・ボーダー地方のケルソーでは12~15世紀の大きな修道院の遺跡が印象的でした。ここでは主催団体に所属する陶芸家のご夫婦宅でお世話になりました。彼らも面白い人たちで、芸術への情熱が強く、家の中は2人が大学時代から集めた世界中の美術品であふれていました。ダイニングには日本の浮世絵が並んでいました。

   日本の有名な陶芸家、濱田庄司がこの工房を訪れたことがあると語る店主は、77歳のときに、77もの茶碗(ちゃわん)を作ったエピソードを披露してくれました。

   さまざまな人生を謳歌(おうか)する人々に出会ったあとの公演は、その人々をはじめ、各地のお客さまへの思いで胸がいっぱいになります。芸術への情熱を世界中に発信しようという使命を自覚したツアーでした。