ピアノロールに残る巨匠の足跡 2016/11

よくインタビューなどで、影響を受けている音楽家について聞かれます。演奏の源は自分の見たもの、聴いたもの、感じたものすべてインスピレーションとなりますが、時代によって、その形は変わってきていると思います。

   昔は、今のようにユーチューブやインターネットで楽曲を簡単に聴くことなどできませんでした。例えば、17世紀にバッハは、先輩であるブクステフーデのオルガン演奏を聴くため、何と300キロも歩いたといわれています。それほどの情熱を持って自分の尊敬する演奏家の演奏を聴こうという意志はすごいと思います。

   今でもライブ演奏を聴くことは、録音を聴くより感動が率直に伝わると思います。以前、日本からドイツに帰った際、フランクフルトに着陸した直後、どうしてもラドゥ・ルプー(ルーマニア出身のピアニスト)の演奏が聴きたくて電車でライブに駆けつけたことがあります。

   あまりの素晴らしさに時差ぼけも疲れも忘れ、むしろ興奮しました。先日、彼の演奏をミュンヘンで聴いたときもまた、今まで思いつかなかった作品の新しい要素が発見できるような演奏で、私に大きな着想を与えてくれました。でも、巨匠演奏家の録音や今の演奏家の演奏は聴けても、昔の作曲家自身の演奏はどうだったのか気になります。

   ところが、実は19世紀終わりからは結構残っているものがあるのです。ピアノロール(今の自動ピアノにあたるもの)に残されたラヴェルやグラナドス、マーラーの演奏などが今はCDで聴くことができ、新たな発見があります。例えば、聴くまではとても知的でクールな作曲家だと思っていたラヴェルが情熱的で感情的な演奏をしているのを聴き、衝撃を受けました。

   自身の個性やモダンな考え方を持ちつつ、偉大な過去の巨匠たちの足跡を知ることで、音楽、そして人間そのものの奥深い世界に手を伸ばすことができるような気がするのです。