演奏活動で日本とドイツ、アメリカを往復した後、疲れと寝不足でかなり不規則な毎日が続いてしまいました。そして次のコンサートの舞台、モスクワに着いて暖かい指揮者とオーケストラに迎えられ、安心していたのですが、いつものコンサート前の昼寝の後、慌ててホテルから出ようとしたら、回転ドアのガラスに気づかず、思いっきり鼻をぶつけてしまいました。
 消毒液を片手に必死に助けようとするボーイさんに「大丈夫です」と告げ、血を抑えながら会場へ。青い鼻をどうにかファンデーションで隠し、かなりパニック状態のまま舞台に向かった私は、お客様の笑顔を見て、ハっとわれに返りました。
 自分がどんな状況でも、お客様はいい音楽を求めて来てくださっていて、それに応えなければと、勇気と喜びが湧いてきました。
 聴衆からは、どの国でも音楽への愛情が同じように伝わってきますが、リアクションは全く違います。それぞれの拍手の“伝統”みたいなものはあるようです。
 まず日本は、曲間では上品に短いところもあり、他の国に比べおとなしい、気を使って回りの様子もうかがっているところがありますが、感動しているときは、終演後永遠と拍手が続きます。アメリカは、気に入ったらとにかくすぐ立ちあがるようで、スタンディング・オヴェーションは最高の評価のようです。ただ、「わあっ」とかなり盛り上がった後、「さあ帰ろう」という撤収も結構速いのですが。
 ロシアは、感動をすぐ手拍子で表すようで、すぐリズムを合わせます。これは、フランスもそうです。ドイツは、一人一人自分の判断でいきなりブラヴォーと叫んでいる様子をよく目にします。手で拍手するだけでは足りないと、足踏みも入ります。
 雑談ですが、ロシアとメキシコは、弾く前に「Miss Kosugeどうぞ!」みたいな司会が入るんです。何だかサーカスのライオンになった気分で、ちょっと違和感があります。
 さて、鼻にケガしてしまったこの日も長い手拍子が続き、この国ならではの伝統と人々の情熱にこちらも感動しました。