シェークスピアの心を伝える 2016/4

シェークスピアは400年前、この世を去っていきました。彼の言葉一つ一つの美しさは消えゆくことなく、今でも人々の心の中に刻まれています。今年の東京・春・音楽祭でシェークスピアをテーマにした公演の話がきたとき、うれしくてしょうがありませんでした。

   しかし、その世界に一歩足を踏み入れると、これはとんでもなく難しい課題ということに気づき、信頼している友人たちと力を合わせてコンサートを組み立てることにしました。

   メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」のピアノ連弾版をばらして、その間に劇中の歌を使った歌曲などをサンドイッチし、全部で一つの劇のようにすることにしました。

   古典派の歌曲から、コルンゴルトやフィンジによるあまり知られることがなかった素晴らしい曲集、ワーグナーの初期のオペラ曲などがあり、音楽の力によってシェークスピアの言葉に新たな力がみなぎります。

リハーサルをしていると、一曲一曲の移り変わりが難しかったり、やはり言葉の意味は深く、共演者と考え直したりという作業をしました。そして、道化師が出てくるシーンを生き生きと伝えるため、ミニ演劇をすることにしました。そして、公演の最初と最後にはせりふを少し入れることで統一感もばっちり。

   細かい所までこだわったこの企画も先月末、ついに本番を迎えました。私たちがどのくらいシェークスピアの言葉に心を打たれ、そのインスピレーションを受けた音楽の素晴らしさに感動したかを伝えることが最も大切。一つ一つの言葉の意味を胸に刻み、そして、想像力の翼を最大限に広げ、お客さまに向かって表すことこそ、私たちの使命です。

   「心に音楽をもたず、美しいハーモニーに心を動かされることもない男は、反逆や策謀、略奪を行うもの」(『ヴェニスの商人』)。音楽と言葉の美しさ、そして、強さに改めて気づかされました。