アーノンクールから受け取ったもの 2016/3

遅い冬を迎えたミュンヘンも春の印が少しずつ見えてきて、庭にもクロッカスが顔を出すようになりました。春は一年の中で最も美しいと同時に、ほのかに切なさを感じさせます。

   今年も冬から立て続けに音楽界の巨匠が去っていってしまいました。特に指揮者、アーノンクールの他界。もう彼の音楽を聴けないと思うと、寂しくてたまりません。

   彼の指揮でウィーン・フィルをザルツブルク音楽祭でたびたび聴くチャンスがあり、生き生きとした骨格の強い音楽に感動しました。そして、最後の来日で聴いたバッハのロ短調ミサは、私の今まで聴いた公演の中でも忘れられない体験となりました。

   今、この世に訴えなくてはいけないことを全身全霊で伝えなくてはいけない、とでもいうような音楽への向き合い方。作品のメッセージに聴衆が息をのむように聴き入り、音楽だけが会場を包むような瞬間には、私もこのような姿勢で音楽と対話したい、と思わせられました。楽屋で会ったときも若い私の率直な感想を大きなエネルギーのみなぎる目を見開きながら聞いてくださり、うれしかったのをよく覚えています。

   尊敬する巨匠たちがどんどん去っていってしまうと、私の音楽への信念の柱が消えていってしまうような気がします。でも、今まで聴いてきたたくさんの公演が自分のエネルギーの源になり、その音楽から学んだことがどのくらい大切なものか考えると、感謝の気持ちでいっぱいです。そして、それをまた次の世代に伝えていくことは、私たち音楽家の責任なのではないでしょうか。

   今後も今まで聴いた巨匠たちを忘れずに、そして、これからもたくさんの公演を聴いて学ばなくてはいけないことに改めて気づかされました。今まで受けてきたインスピレーションを頼りに、自分の道を真っすぐ歩みたいと思います。