チームも音も熟成…最後のソナタ録音

5年間、コンサートシリーズと並行してやってきたベートーベン全ピアノソナタ録音も、ついに最終回となりました。プロデューサーやエンジニア、調律の方、ホールの方々が毎夏、同じメンバーで集まってくださり、家族と再会するようでした。

 最終回ともなると、自分たちの欲しい音がお互いに分かっているので、信頼し合って一人一人の役目を果たせばいい環境が、そこにはありました。気をつかわず、意見を言い合い、私の欲しいオーケストラのような、低音から積み上げていくような響きと、各声部を歌っているときのクリアな音色などが実現できたと思います。

 とはいっても、今回は全ソナタの中でも特に難しいものばかり。特に、最後の3つのソナタに対しては思い入れもあったので、満足がいくか心配でした。プロデューサーとのコミュニケーションは前から大切にしていますが、何も言わなくても、もう一度、私が弾きたいか、満足しているかなどが伝わっているようでした。

 ベートーベンの細かい指示に忠実かどうか、「特にここは気をつけて聴いていてほしい」と前もって言っておくと、自分は作品のメッセージや感情そのものに没頭できました。最後に、全体の流れ、ライブ感、細かいことすべてに良いテイクが出たときは一緒に「やった~」という感じです。

気心の知れた方々に囲まれて録音することは心強いです。6日間、7曲のソナタのためにこの上ない緊張と集中力が続くので、周囲に気をつかっていられなくなるからです。連日、弾きっぱなし、聴きっぱなしの一日が夜の9時頃にやっと終わり、皆で一緒に行きつけの店に食べに行くときが、ほっとするひとときでした。

 最後のソナタの最終楽章を弾いたときは感無量でした。これからもレコーディングはあると思いますが、素晴らしいチームと一緒に録音したこの5年間は私にとってかけがえのない思い出になると思います。