この仕事は常に何があるかわかりません。決まっているコンサートのためにのんびり練習していると、思いがけないことが起こるのです。2月の末にもそんなできごとがありました。
 服部譲二指揮ウィーン室内管弦楽団のウィーン・コンツェルトハウスでの数日後のコンサートで当初予定していたピアニストが弾けなくなったため、急遽コンサート出演のお話をいただきました。急いで4年間弾いてなかったモーツァルトのピアノ協奏曲第9番「ジュノム」を練習しはじめました。
 そういう急な話はよく来るのですが、数日数時間必死で練習した後に結局違うピアニストが弾くことになったり、なかなか実現することはありません。今回は数時間後にすぐ本決まりになり、素晴らしい音楽家との共演、その上ウィーンの素晴らしいホールで弾けるということが楽しみでなりませんでした。
 ウィーンはよくコンサートを聴きに、オペラを見にドイツから通っていたのと、お世話になっていた元日本大使のお蔭でたくさんの交流があり、以前から地元の音楽家などの友達がたくさんいました。伝統のあるウィーンで弾くのは前から夢でしたが、個人的には、友達が自分のコンサートの聴衆の中で見守っていてくれることが私にとってこの上なく嬉しいことです。
 コンサートの直前、今日は何か落ち着きすぎているかなと心配していると、知り合いからの差し入れや、オペラのオーケストラで弾いていて来られない友達から「頑張ってね」というSMS(ショートメッセージ)が携帯電話にあり、急に気合が入りました。曲が始まるとどんどんのってきて、2楽章で、夢が実現したという気持ちで胸がいっぱいになりました。3楽章のオーケストラとの対話はキャッチボールのようなとても楽しい時間でした。
 次のコンサートが開かれる日本に発つため、朝5時にホテルを出る予定だったので、結局朝の3時半までウィーンのオーケストラ奏者の集うパブで友達と飲んでいて徹夜となりましたが、久しぶりに聞いたウィーンの方言が耳に響いている中、日本に行く飛行機の中でぐっすり眠れました。
 音楽からだけではなく、友達から受けるインスピレーションは、音楽を奏でる上で暖かい気持ちにさせてくれます。