楽譜から感じ取るメッセージ

「ここは雨だれのイメージで、その情景の中から戦争の記憶が回想されるの。その回想がどんどんはっきり見えてきて、その後は雨だれと重なり合って変容されていく」

 11月に共演したチェリストの山崎伸子さんは、曲のイメージを明確に語られました。

 音楽家は、常に過去の作曲家の意思やメッセージを楽譜から読み取らなければなりません。私のように戦争を経験していなくても、その時代の空気をつかみ、その時代だからこそ出てくる音楽を、できる限り想像して音に表すのです。とても尊敬している音楽家の山崎さんと共演すると、その想像を明確にしてくださいます。

 この曲はイギリスの作曲家、ブリテンが作曲したチェロ・ソナタで、言葉を交わすようなチェロとピアノの対話があり、リズミカルでユーモアにも富んでいます。一方で、1961年に作曲されたこともあり、戦後の傷痕が伝わってくるのです。続けて弾いた、ショスタコーヴィチが1934年に作曲したチェロ・ソナタとともに、メッセージの強さに深く感動しました。

情景、感情、人々の記憶が混ざり、音楽の中で映し出されます。とてつもない痛みやトラウマを抱えた、その時代の作曲家たちの思いは、平和の中に生きている私の世代にとっては想像しにくいものかもしれません。でも、ショスタコーヴィチの端々に隠されている皮肉や抑制されたひそかな訴えは、音楽によって明らかにされ、心をグサグサ刺します。

 ただ「綺麗(きれい)だなぁ」とか「良い音だ」という印象だけではなく、考えさせられる何かがあるからこそ音楽は生きていて、私たち人間にとって欠かせない存在なのだと思います。音楽家として、いつも感じていることのようですが、想像力豊かな方との共演だからこそ、思い出させられる音楽の力がそこにはありました。