想像力かき立てるリスト

どこかで海のうねる音が聞こえます。最初は静かだったのが、徐々にそのうねりは大きくなり、荒々しくなってきました。

 19世紀の優れたピアニスト、作曲家であったフランツ・リストが書いた内面性と詩的感覚に富んだ作品、バラード2番を弾いていると、音楽の中に海の音が聞こえてきます。

 この曲は、オウィディウスやシラーなどが伝えているギリシャ神話「ヘーローとレアンドロス」の話を基に書かれたと言われています。アビドスの青年、レアンドロスと、ヘレスポント海峡の反対側のセストスの塔に住む巫祝(ふしゅく)、ヘーローは恋に落ちます。レアンドロスはヘーローと密会するために海峡を泳ぎ、セストスへ通います。

 バラード2番ではそのレアンドロスが泳ぐ様子を、悪い予感と暗い波の押し寄せるようなモチーフで表しています。若者の純粋な愛を語るような優美なテーマと交互に出てくる冒頭の海のテーマは、その都度、荒々しくなり、まるでお互いを求める情熱と心の嵐も増しているようです。そして、最後に波は荒れ狂い、嵐に巻き込まれ、レアンドロスはついにおぼれてしまうのです。流された彼の遺体を見つけたヘーローは彼の魂を追い、塔から飛び降りてしまいます…。

 ここでお話は終わってしまいますが、リストの作品ではここで変容を思わせるテーマが出てきます。2人の魂は幸福な終止に向かっているようで、弾いていると胸がいっぱいになります。

 詩を読んでいるかのように明確に、想像力をかき立てられました。まるで物語の中に入ったような気持ちにさせてくれる音楽の魅力。この連休、埼玉、奈良で開く公演でどんなふうに表せるか楽しみでなりません。