毎日雪が深々と降る中、私のとても楽しみにしていたスイスでのプライベートコンサートの日が来ました。年輩のご夫婦がフリブルクから少し車で走ったところの山の上の方に大きな農家を持っており、その家の一郭はコンサートホールに建てかえてあります。去年メゾソプラノ歌手のミヒャエラ・ゼーリンガーさんと一緒に行き、演奏だけではなく私の食べっぷりを気に入ってくれたのか(笑)、来年はソロでここにまた来ないかと呼んでくださったのです。そこでは、自家製のパンやスープと共にいつも美味しいチーズとワイン、クリームやメレンゲ菓子など、そこの様々な名物を用意してくださり、たくさん食べずにはいられなくなくなるのです。
彼らが「アーティスト部屋」と呼んでいるコンサートホールの上の屋根裏部屋に泊まらせていただき、そこからいつでも下に降りてピアノを弾ける環境でした。ホールは屋根の形を辿って柱が見える全体に木造のもので、そのホールに入るとまずピアノがあり、客席は前列から後列まで徐々に上がっていくしくみで、前列ではその階段の上に座布団をひいて座ることができ、もっと上には椅子が並んでいて、100人ぐらいの聴衆が家族的な空間で音楽を楽しめるようになっています。
私はコンサートホールの壁を触ってみたり、ホールの雰囲気をまず掴むことを大切にしていますが、今回は私の大好きな木の香りと感触に囲まれながら、自然の空間に浸れることが幸せでした。いつもと違って近くに座っているお客様の息づかいと共に音楽を作ることができるのです。その地の食べ物を味わって、じっくり練習した後、音楽愛好家達に暖かい拍手で迎えられ、気持ちよく演奏ができました。
この80年代に夫婦で立ち上げたコンサートシリーズも今日220回目を迎えると、ご主人が嬉しそうに教えてくれました。このご夫婦の音楽へ対する純粋な情熱に惹かれ、この癒される空間に、世界各地から何回も戻ってきたいと思う数多くの音楽家の気持ちがわかりました。音楽というのは、作品と演奏家と聴衆が本来近い距離間の中で対話しているのではないでしょうか。「仕事」という意識から逃れ、暖かく迎えられ、それに自分も答えたいという気持ちから音楽を演奏するという姿勢は、これからも忘れたくないと思いました。