ライブ空間が生み出す音楽

4月の末、新しいCD「ベートーヴェンのソナタ第3集『自然』」がついにリリースされました。そのおかげで、この2週間は録音したソナタの中から「ワルトシュタイン」などをコンサートで再び演奏する機会に恵まれました。

 練習するのとはまったく違う心境のコンサートは、自分のためではなく、勉強のためでもなく、お客さまのために弾くという重要な責任感とともに、一方で解放感を感じます。

 というのは、練習ではしっくりこなかった曲の箇所が、コンサートという、お客さまも自分も最も集中した空間によって、やっと納得することがあるのです。

 「ワルトシュタイン」は、ベートーヴェン中期の最も斬新で規模の大きいソナタの一つですが、最初から最後まで大きな流れがあり、その哲学的な問いを表現するためには、最後にたどりつくまでの段階とあらゆる音色が自然に、オーケストラ的に表されないといけないと思うソナタです。

 連休中に東京でラ・フォル・ジュルネという朝から晩まで公演が続くフェスティバルがありました。そこでこのソナタを2回弾きましたが、それぞれ違う演奏になりました。

最初の公演は夜で、夜は私にとって特に音楽に入り込むことができる時間なので、音楽にのめりこんでその感覚に引っ張られている気がしました。翌日は朝の公演で、少し音楽から距離を持って客観的に全体像を考え進んでいったようでクライマックスをじらして、じらして最後に持ってきたような演奏になりました。

 音響、心境やお客さまの雰囲気によって毎回違う演奏ができることこそライブのいいところなのではないでしょうか。