新録音、聴いてみると意外にも…

昨年8月に録音したベートーヴェンのソナタ第3集「自然」の試聴盤がついにできてきました。自分の録音を聴くということは、実はかなり苦痛なことで、聴く前はとても緊張します。

 音楽というのは数学のように完璧な答えがあるわけではなくたくさんの本を読んでベートーヴェンの伝えたいことを考えてもあらゆる可能性があります。極端な主張をしていなくても、楽譜上に書いてある強弱など枠の中にはまっていても、表現の違いにこだわるアーティストにとっては気になることがあるのです。

 第2集「愛」の録音では、ある短調の部分を、後の長調の部分よりもいらいらと機嫌悪く弾いていました。それが半年たつと、そこは悲しく重々しく弾くのがベストという結論が出ていました。また何年かたつと前の案もありえると思えるようになってくるのですが、録音直後は気難しくなってしまうものです。

 今回の編集では、あるソナタの、録音のときに選んだテイクがどうしても気に入りませんでした。そこは演奏中なかなか満足がいかなかったところだったのですが、何回も弾いて一番いいと思った最後のテイクを入れていました。ところが全体を聴くと、何回も弾く前のフレッシュなテイクの方が音楽的にいいことに気づきました。客観的に聴くとこんなこともあります。

 神経質に自分の演奏と向き合いましたが、まるでコンサートのように興奮して弾いているように聞こえる録音でした。ベートーヴェンのメッセージに忠実に近づこうとした今の自分の演奏はできたかと思います。このCDを聴くお客さまにはどういう風に聞こえるか、早く知りたいです。