私がこの仕事を今まで続けることができたのは、常に夢を追い続けているからだと思います。小さな夢、大きな夢を一つずつ実現させるために全力を尽くす、その一心で音楽の道を突き進んできました。
 たとえば、12歳のときは1枚のCDを作ることがやっと実現させた大きな夢だったのが、20歳を過ぎると、ベートーベンの32のソナタ全集を作りたいというもっと大きな夢を見ていました。
 でも夢を実現させるまでにはいつも長い道のりが待っています。企画を通すために企画書を書いて、どのくらい情熱を込めてこのプロジェクトに専念したいかを話が苦手な私が関係者に一生懸命話す。そして断られ、落ち込み、「やっぱり諦められない」と思い、もう一度交渉しに行く…。それを何度も繰り返すことによって皆様がやっと理解してくださり実現しました。
今年も一つの夢が実現しました。5年ぐらい前にロンドンを訪れたとき、ウィグモア・ホールという室内楽やリサイタルなどが開催されている1901年に建てられた歴史的なホールに公演を聴きに行きました。そこの何とも言えないスピリチュアルな空間と、絶妙な音響に惚れこんで、ここでいつかリサイタルを弾きたいという思いで胸がいっぱいになりました。
 そしてやっと今月、その夢が実現しました。私の本当にここで弾きたいと思う曲を集め、準備に没頭していると、あっという間に当日が訪れました。
 楽屋に入ると、今までにここで弾いたたくさんのピアニストのメッセージやサインがあり、一人ひとりのこのホールへの愛情が伝わってきました。弾き始めた瞬間、ここで繰り広げられた数々の名演がしみついていることが想像できました。ここならではの、一つひとつの音がシャボン玉にくるまれたような響きに浸ると、ホールには人間の魂と音楽だけが協和していて、音楽家にとってこの上ない幸せを感じました。
 私は、どんな壁を砕いてでも夢へ向かって立ち向かうことによって少しずつ成長してきたと思います。これからもどんな険しい道と、その奥の大きな夢が待っているか。そんな出会いが待ち遠しいです。