小菅優、藤倉大、杉田元一
対談 (2)

真剣な話なのですが、鼻息とかはどのくらい残します?」

 

藤倉:真剣な話なのですが、鼻息とかはどのくらい残します?(いいぐあいに残ってるなって思って聞いてます)

 

杉田:基本的にはそれも音楽の一部だと思うので残したいんですけど……まあでも音楽の流れ上、あってもいいときとないほうがいいときがありますから。

 

小菅:鼻息は完全におまかせしています(笑)

 

藤倉:優さんは自由に弾けばいいんですよ。で、今鼻息に集中して聞いていますが(笑)、遠目のマイクでしかはいってないですね、鼻息は。

 

杉田:大きめに入る近接マイクのは消すことが多いですね。音楽に被りすぎるのはよくないので。ライヴならともかく何度も繰り返し聞かれるディスクだと特に。

 

藤倉:取る時って、結構高い倍音までちょっと削れちゃうところあるじゃないですか。実際、どこまで残すかって大きな決断なんですよね。

 

杉田:鼻息と、あと打鍵音。

 

藤倉:このベートーヴェンの録音って変だなって思うんです。変っていうかつまりユニークってことなんですが、鍵盤の地理が見えないんです。

 

杉田:地理?

 

藤倉:高い音も低い音も、左右、微妙な、絶妙なバランスで音像がある。それってあれだけ音域が広いピアノという楽器では大変じゃないですか。ハンマーの音も聞こえますから、当たり前ですがマイクは近いのもあるわけで……これ、めっちゃ褒めてます、もちろん……こんな絶妙な音像ってあまりないような気がします。低音の広がりもちょうどいいあんばいですし。音像がピラミッドみたいになってますね、うまいこと。爪の音とかはどうしてます?

 

杉田:爪のタッチ音はエンジニアががんばってくれてますね。

 

藤倉:優さんの、あの速さであの音色でデタシェで弾くんかい!っていうすごいところもよく聞こえます。

 

小菅:爪の音はね……まめに切ってはいるんですけどどうしても鳴っちゃうんですよね。

 

杉田:ノイズとると音楽変わる場合もあるからね。藤倉さんのアルバムで、吉田誠くんのクラリネット・ソロ(「GO」)のキーノイズのことは前にちょっと話したことがありますね。

 

藤倉:僕の場合も「ある程度」は取りますが、取りすぎるとせっかくの生演奏なのにサンプラーみたいになっちゃう……

 

小菅:もうすぐ出る新作「Turtle Totem」のキーノイズ。それも曲の一環かと思った!

 

藤倉:ピアニッシモだとどうしてもキーの音が吹奏音より大きくなっちゃいますね。「演奏で起こるノイズはとってはいけない」と言われたこともあるんですが、そのあたりもどこで線引きするかなんです。今の時代はピアノもクラリネットもサンプラーがすごいリアルだから。ペダルの音とかダンパーの音までしますからね、今のサンプラーは。

 

杉田:ですね。ヴァイオリンのフィンガリングノイズとかも……

 

藤倉:そう!それです

 

小菅:なるほど、ノイズのバランスって大事なんですね。ノイズがないとリアルに弾いてる感じがなくなっちゃうし。

 

藤倉:そうなんです。ただあまりにもノイズが多いとラジオ放送と変わらなくなっちゃいます。ラジオは無料で聴けるし、記録なので、それはそれで素晴らしい。でもCDとなると、アルバムとなるとそれと同じじゃいけないじゃないですか。それに放送局の録音レベルも高いですからね。大手レーベルのライヴ録音でもペダルのノイズがピアノの音より大きいとかあるじゃないですか(爆笑)。いくらライヴ録音、とはいえ、ですよ。

(ベートーヴェンのソナタを聴きながら)あ、で、杉田さん、ベートーヴェンですが、高音の処理はどうやってます? 下がズーンと鳴っているときの高音のフォルテとか。

 

杉田:今藤倉さんが言ってるのはソナタ全集の録音のことですか?

 

藤倉:そうです、杉田さんが関わった優さんのベートーヴェンのアルバムの高音の処理です。フォルテなのに耳をつんざくような響きが出ないじゃないですか。

 

小菅:そう、これ素晴らしいですよね。高音がきついのって私ほんとにいやなんですけど、このベートーヴェンはいつも肉付きのある暖かい音がする。高音もきれい。

 

杉田:マイクの選び方からセッティング、そして決め手のDSD録音(笑)。それに調律師のテクニックとかいろいろ条件がそろいましたからね。ピアノの高音はどうしてもキラキラしちゃうので、ヴィンテージのマイクだといい感じに録れる。

 

藤倉:マイクの種類が豊富にあることもソニーの強みですよね。それにしても、このアルバムはピアノのアルバムにしてはすごくユニークですよ。別のピアニストのアルバムと比べて聞いてるのですが、全体の音像が全然違いますね。全体が丸い感じ、球体のような感じがします。他のピアノのアルバムってちょっとどっかひっぱってるところがあるんですよ。ピアノはほんとうに難しいです、録音するには最悪と言ってもいい。音域は広いし、強弱はありまくるし、その上、ノイズがうるさい(笑)。強弱の音の差ってどうやってます?

 

杉田:それはまずは演奏家の表現がどうなっているかがポイントですね。おっしゃるとおり、ベートーヴェンの作品は強弱の差が大きいうえに、優ちゃんの表現はダイナミックレンジが広いので……録音だとそのダイナミックレンジは残念ながらそのままでは入らないんですよね。なるべく実演でのダイナミックスを感じ取れるようにはしていますが、CDだとなかなか難しいです。SA-CDだとだいぶいいんですけど(笑)。あとハイレゾももちろん。

 

藤倉:悩むところですよね、これは。生できくよりいいじゃないですか、録音。だって生だったらこんなに細かいところまで聞こえませんからね。

コロナのおかげでこうしてゆっくり録音をじっくり聴けるわけなのですが(笑)。

 

杉田:ホールの客席では無理ですよね。

 

藤倉:絶対無理ですね。

 

杉田:だからこそ、録音物の価値はコンサートとは別のところにあるわけです。

 

藤倉:まったくそのとおりですね!

 

杉田:CDはコンサートの代替物ではありませんから。

 

次回は「アリとキリギリスのアリみたいに」ーーーーー

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・藤倉大

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