暴力に対する私たちの答えは

あっという間に1年がたちます。例年ならのんびりとクリスマスの料理について考える時期ですが、今、世の中で起こっていることが頭から離れず、のんきなことを考えていいのか、疑問に思ってしまいます。

   ヨーロッパでも世界の情勢について、共演者や主催者の方々と話し合いました。それぞれ真剣に考えていて、今後の未来に不安を感じているようでした。

   私は演奏家として、お客さまを楽しませるだけではなく、音楽を通じてメッセージを伝えることができているか、人を動かすことができているのか、自問しています。

   メッセージはベートーベンの音楽にも常に存在します。年末に第九を演奏する習慣は日本ならではですが、最後の合唱で歌われる「すべての人々が兄弟になる」という言葉には、現代だからこそ強い意味を感じます。差別や暴力が世界中で続いている中、人種の枠を超えてお互い尊重し合うことの大切さが音楽からも伝わってくるのです。

   音楽を通じて人々が仲良くなると単純に言ってしまうと、それは純粋な夢。実現できることではないとしても、人間には感動する力、考える力がある。素晴らしい演奏を聴くことによって行動力を得たり、人生観を変えたりすることができるのではないでしょうか。

   音楽のように美しいものを求めることによって、心の中の黒い部分、欲や憎しみを、少しは消し去ることもできるのではないでしょうか。

   私自身も音楽に集中すると悩んでいた問題がすごく小さいことに思われるようになり、音楽を愛し、それを分かち合うことに大きな喜びを感じます。

   指揮者で作曲家のバーンスタインは言っていました。「暴力に対する私たち(音楽家)の答えは、もっと熱烈に、もっと美しく、もっと忠実に音楽をすることだ」。その肯定的な姿勢を持ち続けることが音楽家の柱になるのでは、と思ったとき、遠くに希望の光が見えてきました。