ベートーヴェンとの旅もついに最後になりました。このプロジェクトは、私が20代から30代へ移り変わる音楽家として、また人間としての成長の大きな課題でした。そして私は聴衆の方々にベートーヴェンともっともっと親しんでいただきたいという気持ちでいっぱいでした。

旅をするにつれてベートーヴェンの葛藤が見えると同時に、自分にも葛藤があったと思います。偉大な作曲家の作品だからこそ、考え、深く掘り下げ、そして探る余地がたくさんあり、コンサートを重ね、録音をするたびに、発見がたくさんありました。

たとえば私の大好きな第7番のソナタの第2楽章は、細かいニュアンスを表出でき、歌えていても、全体のキャラクターが現れ出るまでに時間がかかりました。そうして、その楽章全体の厳しさ、深刻な訴えが最終的ににじみ出ることがいかに大事かがわかりました。

ベートーヴェンのメッセージを追求するためには、楽譜の細かい強弱の指示、ペダルの指示、そして楽譜に書いていないことまで、いかに深く読まないといけないか、ということが身にしみます。
そしてベートーヴェンの世界に浸れば浸るほど、のめりこんでいき、この世界を表すためには、思考と感情とのバランスが大切だということも思い知らされました。前回の「ハンマークラヴィア」では巨大な作品を弾くこと、構成を考えることと同時に、究極とも言える苦しみの中、もがいているかのような感情の限界に自分を持っていき、そしてその先にある救済を味わうことによって、やっとこの曲に近づけた気がしました。

この「ハンマークラヴィア・ソナタ」の葛藤と複雑な展開の後、最後の三つのソナタが生まれたわけですが、その中にはたくさん脱皮をした後のような、ある意味原点に戻ったような、遠くから自分を見つめる余裕を感じます。今までの葛藤があったからこそ、こういうこの上なく素晴らしい結果があるんだ・・・私自身にはまだ未知の世界ですが、最大限に想像の羽を伸ばすと、そこには私が何十年も先に発見するであろう、花の種子があるのではないかと思います。

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このピアノ・ソナタの旅は最後になりますが、実はこれは新たな旅の始まりでもあります。これから私はベートーヴェンのピアノ付全作品を「人生の課題」として弾いていこうと思っています。この新たな旅の始まりを皆様と一緒にスタートさせたいです!