ベートーヴェンの全ソナタ演奏会も終盤に入ってきました。今後の3つのコンサートは、感情に溢れる「悲愴」「熱情」、次回は大作「ハンマークラヴィーア」、そして最後の3つのソナタと、どんどん深みを増していきます。
演奏会の前、特にベートーヴェンでは、いろいろな版の楽譜を見比べ、ベートーヴェンはどういうフレージング、音色、テンポなどを求めていたかを考えます。それは、自分の演奏を録音して聴いてみたり、考えを文章にしてみたりという、頭を使う意識的な作業です。
しかし、演奏会では(録音でもそのようなライヴの心情にもっていけるよう心がけていますが)それまで考えて練習してきたことを全部切り捨てます。考えは既に指に刻まれているからです。集中力が増し、曲の核心に魂が全部向けられると、今度は急に無意識の自分に気づきます。感情に揺さぶられ、迷路のようにじわじわとクライマックスまで続いていく道筋は、会場の熱気、音楽の熱気があるからこそ作られていくものだと思います。「熱情」ソナタにおいては、そういう瞬間が最高に生かされた情熱の爆発が繰り広げられます。
今までの回では、楽しいソナタ、精神性の高いソナタ、革命的なソナタなど、既にベートーヴェンのいろんな面を味わってきましたが、今回は、絶望や狂気に直面する究極の感情に没頭したいと思います。